「擇日(たくじつ)」とは、古代中国で重視された「時間」が人に与える影響と、それがどのように形成されるかを考究する学問であり、
「吉日良辰」(めでたい日)を選び、「趨吉避凶」(凶を避け続けて吉に赴くこと)を行う文化である。
吉凶を説く「暦注」として馴染まれてきた擇日(たくじつ)法に「叢辰(そうしん)法」がある。
これは中国では「通書(つうしょ)擇日」とも呼ばれ、本書で詳しく紹介するテーマである。
通書とは、日選びと簡便な占術を中心に、生活に役立つ情報や百科事典的な知識を収載した冊子のことで、暦書黄・暦民暦・日暦などとも呼ばれる。
「時間」「空間」「人間」の三位一体を判断していくことが本来の風水判断であり、
「空間」がどのように「時間」とともに変化し、どのような影響を「人間」に与えるのかを考え、
この変化し続ける「時間」を読み解くのが、「擇日」の技術体系である。
風水(空間)だけ見て擇日(時間)を見ないのは不十分であり、
その風水鑑定の判断もまた時間の経過とともに異なるものになると理解することが重要である。
古代中国で最も発達した自然科学の一つは「天文学」であり、天文学は「占星術」の色彩が濃い。
古代中国の『天官書』あるいは『天文志』とは、実際には「占星術」の書である。
「占星術」は「天、象を垂れ、吉凶を見す」を仮設し、星象の活動、変化である「天文異象」を観察し、人事の吉凶の変化を予測した。
中国人は「擇日術」を「天学」と呼ぶ。
古代中国において農耕生活が始まり、天から地上と人間世界支配の代行者として認められた天子(皇帝)が、天体を観測して正しい暦象を把握し、
それに基づいて農耕に必要な四時の変化の規則となる暦を民に与えることで、ここに「人」と「天文」「地理」とが「暦算」(暦法と算術)によって結合した。
上は天子から下は庶民まで「黄暦」(最古の暦法は黄帝によって公布)を行事の暦とし、生活の準則とした。
天子が臣下に暦を頒布する頒暦によって、吉凶宜忌(宜しいことと忌むこと)の規範を説く「黄暦」の影響下で、政体は永く固められた。
中国では今でも、冠婚葬祭の行事は古くから民間に根づいている「暦書」(通書)に基づいて行われる。
「擇日」文化は、古人の生活においてきわめて重要な地位を占有し、その影響力は非常に普遍的である。
出版社 : 河出書房新社 (2019/9/10)
発売日 : 2019/9/10
単行本 : 336ページ
ISBN-10 : 4309290442
ISBN-13 : 978-4309290447
寸法 : 15.8 x 3.2 x 21.8 cm